渡辺 純

わたなべ じゅん

ナノマテリアル研究部

入社年月日
2012年4月 

「やってみないと分からない」という気持ちで、信念を貫く

研究について

新規ナノ材料を活用し、信頼性の高い次世代接続技術の確立を目指す

2017年、日本最大級の国立の研究機関(以下、国研)の中に共同研究ラボが設立されました。これは両者連携で未来のクルマに対応する高信頼・高性能な「接続技術」の確立を目指すプロジェクトです。私はそのメンバーに選抜されて3年半、その国研の材料・化学領域の研究者らと共同研究を行ってきました。

ここで言う接続技術とは、自動車内の電子機器等をつなぐワイヤーハーネス(W/H)や、W/H同士をつなぐコネクタの接続部分において、電気抵抗の増加等の機能劣化がおこらないようにする技術を指します。高電圧・大電流が流れるハイブリッド自動車や電気自動車には、ますます重要になる技術です。

私が担当していたのは、コネクタ端子の母材である銅の表面に、新たなナノ材料を生成させる研究です。酸化しやすい銅の表面は通常、金属めっき処理をして機能劣化を防ぎますが、ナノ材料を使うことでより酸化しにくく、薄く、強く、低コストで電気を通しやすい表面処理ができる可能性があります。私は矢崎の製品に適したナノ材料の見極めと、実用化に資する表面処理方法を研究していました。

「やってみないと分からない」という気持ちで、信念を貫く

ナノ材料を生成させるにはいくつかの方法がありますが、私が主に用いたのはCVD法(※1)です。母材を高温加熱して、そこに気化した材料を接触させると、表面で化学反応が起きて被膜ができるという仕組みです。形成された膜は実際の自動車に近い環境を再現して、さまざまな評価試験を行います。自動車部品は温度や湿度の変化が激しく、塩分や粉塵、排気ガスにもさらされる厳しい環境下で使用されます。そのため研究段階でも、製品に近いレベルでの評価が求められるのです。酸化の状態や導電性、耐久性は、ラマン分光器(※2)やEDX(※3)で分析し、分子構造や元素の状態を調べることで確認します。目に見える変化がなくても、元素の分析で酸素の量が多いと酸化したことがわかるといった具合です。

私がこの研究で特に着目したのは、層状被膜です。ナノレベルの膜を一切の欠陥なしに被覆するのは至難の業で、どこかに小さな隙間があると、そこから母材の金属に酸素が触れてしまいます。それならば多少の隙間があっても層状にすれば、結晶の欠陥をカバーできるのではないかと考えたのです。私がこの理論立てをしたときには、私が着目した材料で銅の表面に層状被膜を作る技術が世の中に存在しませんでした。そこでまず、単層を複層化する技術から研究をスタートしました。国研に行く2年ほど前のことです。当時周囲には、層状では電気が通りにくいのではと懐疑的な意見もありましたが、私には何か確信のようなものがあり、やってみないと分からないという気持ちで前進を目指しました。今でも座右の銘にしている「前へ」は、この経験が元になっています。

※1 CVD法:Chemical Vapor Depositionの略称。母材の表面に蒸着物質を成膜させる技術。

※2 ラマン分光法:ラマン散乱光(物質に光を入射したとき、散乱された光の中に入射された光の波長と異なる波長の光が含まれる現象)の性質を調べることで、物質の分子構造や結晶構造などを知る手法。

※3 EDX:エネルギー分散型X線分析。電子線やX線を物体に照射することで得られるスペクトルから、物体を構成する元素と濃度を調べる元素分析手法。

入社のきっかけ

共同研究で学んだマインドが、研究者としての視野を広げた

企業の研究は初めに目標を立てて、それに達しなかったら中止にもなりかねないシビアな世界です。低コスト化が望めない研究も継続が難しいです。実際、私が入社当初にやっていたプラズマの研究は議論の結果、将来的に実用化困難との判断に至りました。その後共同研究が始まり、国研では成膜や分析の専門家と日々議論を重ね、アドバイスをいただくことで一気に研究が進みました。そして専用の装置を駆使して遂に、層状被膜を作ることに成功しました。懸案だった導電性も、実験で確認することができました。誰も分からなかったことが分かるようになる瞬間は、最高の喜びであり、これこそが研究者の醍醐味です。

国研は面白い結果が出たらそれをもとに次を考えるのが得意な方が多くいらっしゃいました。研究の進め方がアカデミックで、視野が広がりました。一方で企業研究は、研究テーマの設定や評価基準は厳しいですが、目標が明確で頑張りやすいですし、自分の研究がどこまで認められたかはっきり分かってやりがいを感じます。国研で得た研究スタイルやマインド、人脈を今後に活かしながら、次なる新しい目標に向かって邁進していきたいと思っています。

最後に

結果が予想外でも、画期的なアイデアにつながることがある

私は学生時代から研究職に就きたいと思っていました。研究で自分の立てた仮説通りの結果が出ることは多くないですが、予想外の結果には自分の視点を変えるヒントが隠されていて、それが画期的なアイデアにつながることがあります。予想通りでもそうでなくても、得られた結果をロジカルに考察する面白さが研究にはあります。私は矢崎に入社して技術研究所に配属され、研究者になる夢を叶えることができました。ここには基礎も応用もできる研究環境があり、それが大きな魅力の一つと考えています。

研究で行き詰ったときは、リフレッシュも大事です。私は旅行やカラオケでストレス解消できるようになってから、苦しさを感じずに研究を進められるようになりました。ちなみにカラオケでは、はじめの声出しは「宇宙戦艦ヤマト」、締めの一曲は「Get Wild」と決めています。

経歴・プロフィール

入社日

2012年4月

略歴

プラズマを用いた導体膜形成
ナノ材料の製造、評価

出身地

愛知県

研究領域

ナノテク・材料基盤技術

座右の銘

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