「すべての電池に、もう一度羽を」——モビリティ社会の未来をつなぐリユース蓄電システム用製品『B∀TTERFLY®』。
劣化状態の異なる使用済み車載電池を、混ぜたまま活用する。そんな"常識外れ"の発想から生まれた全く新しいリユース蓄電システムに、YAZAKIは挑んでいます。
世界的な脱炭素社会の実現に向けて電動車両の普及が進む一方、その先に避けて通れない課題。それは役目を終えた車載電池を、どう活かすか、です。
とりわけ、走り方も使われ方もバラバラだった電池は、一つひとつ劣化の状態が異なります。この「バラバラな電池たち」をどう再利用するかが、いま大きな社会課題となっているのです。
この難題に対し、YAZAKIは独自のアルゴリズムと制御技術を武器に、B∀TTERFLY®の開発を進めてきました。
社内にシステム開発の知見が少ない中で、どのように開発を進めていったのか、技術的に困難だったポイントや、今後について語ってもらった。
この記事の目次
B∀TTERFLY®の3つのポイント
• 劣化状態の異なる電池の混在利用 独自の制御アルゴリズムにより、効率的かつ安定した電力需給を実現
• 資源の有効活用 使用済み車載電池を再利用し、コスト削減と環境負荷低減に貢献
• 柔軟なシステム設計 家庭用・産業用・系統用への幅広い適用が可能
通常、劣化状態の異なる電池を一緒に使うと、最も劣化した電池に全体の性能が引きずられてしまいます。誰もが「当たり前」と考えていたこの前提を、B∀TTERFLY®は覆そうとしているのです。
しかし、その道は決して容易ではありませんでした。社内にシステム開発の知見もほとんどない中で、メンバーはどのようにこの難題に挑んでいったのか。B∀TTERFLY®誕生の知られざる物語を、開発の中心メンバー4人にお聞きしました。
開発体制
システム班、ソフトウェア班、ハードウェア班、構造班、PCS※班、安全班、評価班に分かれて、8名で開発している(2026年6月時点)。今回の参加メンバーは開発当初からプロジェクトを推進している4人。
※ PCS:Power Control System
荘田:技術開発室 先行技術開発センター パワーシステム製品開発部 主担当
担当:開発全体統括
略歴:1998年入社。YAZAKIで数少ないシステム開発経験があり、システム班も管理/監督。東京工芸大学大学院 電子工学専攻出身
大野:技術開発室 先行技術開発センター パワーシステム製品開発部 HV4 リーダー
担当:システム班
略歴:2009年入社。YAZAKIで高精度電流・電圧センサを研究し、電池のことをより詳細に知るためプロジェクトに参加。沼津工業高等専門学校 物質工学科→専攻科出身
星出:技術開発室 先行技術開発センター パワーシステム製品開発 HV4
担当:(主に)ソフトウェア班
略歴:2019年入社。前職で工場の設備管理をしていたが大学時代にやっていた研究に近い開発をするためYAZAKIへ転職。京都大学大学院 電子工学専攻出身
髙木:技術開発室 先行技術開発センター パワーシステム製品開発 HV4
担当:(主に)ハードウェア班
略歴:2020年入社。自動車メーカーで生産技術に携わったのち、派遣社員としてYAZAKIに勤務し、電池推定技術試験の補助業務をしていた。会社としてとても働きやすく、業務にやりがいを感じYAZAKIに応募した。沼津工業高等専門学校 電気電子工学科出身
そのプロジェクトは、雑談から始まった
荘田)もともと違うプロジェクトで集まったメンバーですが、雑談をきっかけにB∀TTERFLY®を一緒にやることになりました。
Q1. この製品を開発することになった経緯を教えてください。
荘田)初代日産リーフが発売された翌年の2011年、当時在籍していたYAZAKIの技術研究所ではリチウムイオン電池の状態検知・推定技術の開発が始まりました。しかし、当時のYAZAKIでは車載電池や高電圧バッテリ用バッテリマネジメントシステムに搭載される要素技術は当時の事業領域との接点が限定的であり、製品化に向けた市場価値や事業展開の道筋を十分に明確化できず、「なぜこんな開発をしているのか」と疑問視されることもあり、製品化には至りませんでした。
この経験から、私たちは単なる要素技術の開発に留まらず、技術を活かす製品提案の重要性に気付きました。
Q2. コンセプトや技術アイデアはどこから生まれましたか。
大野)2017年、電動車両の研究が社内で進んでおり、電動車両の普及とともに「いずれ、車載使用済み電池の処理が課題になる」と考え、自動車よりも負荷の軽い定置用としてリユースすることに着目しました。実際に開発が始まったのはその2年後です。
荘田)劣化状態の異なる電池を一緒に使うと、最も劣化した電池に全体の性能が制約されてしまうという課題がありますが、メンバー内で雑談する中でその前提を崩せるんじゃないかという話になりました。そこから劣化状態の異なる電池を効率的に活用する方法を模索し始めました。
当時技術研究所内には「ありたい社会像を描き、それを実現するための技術開発をする」というバックキャスト的思想があり、我々は電池廃棄の問題と再エネ普及の問題を同時に解決できるのがリユース蓄電システムだと考えました。
Q3. 社内の反応について教えてください。
大野)2019年の「アンテナ活動※1」で始まったプロジェクトなのですが、当時の上司はじめ社内からの応援・支援をもらい継続して開発できています。
2年間の研究を経て、矢崎エナジーシステム㈱が主催する未来インキュベーション活動※2 に参画し、事業提案を試みました。
※1 幅広く情報を収集して新しい世の役に立つ製品・技術を探す技術研究所独自の活動。工数の20%を使用可能
※2 事業化を目指すプロジェクトが対象
Q4. 当該製品におけるYAZAKIの強みを教えてください。
①劣化状態の異なる電池の混在利用が可能
独自の制御アルゴリズムにより、効率的かつ安定した電力需給が可能
荘田)劣化状態が異なる電池の混在利用に取り組む企業はいくつかありますが、YAZAKIは独自技術でこの課題を解決しています。
②資源の有効活用が可能
車載使用済み電池を再利用し、コスト削減と環境負荷低減に貢献
荘田)現状、日本国内の中古電動車両の多くは海外に流出しています。車載電池にはレアアース等の資源も含まれますから、資源安全保障を成立させるためにも、車載電池の国内循環が必要です。
③柔軟なシステム設計
家庭用・産業用・系統用への幅広い適用が可能
大野)基本構成を小さく作り、ストリング数やストリング内の電池モジュールの数を柔軟に変えて多様な目的に対応できます。
Q5. 独自の制御アルゴリズムについてどのように考案してどう乗り越えたか教えてください。
星出)どうすればいいのか四六時中考えていましたね。大きく分けて以下の3点がポイントでした。
① バイパス制御:通常異なる容量の電池を直列に使用すると、最も容量の低い電池がボトルネックとなり、全ての電池容量を使い切ることはできません。その課題に対してB∀TTERFLY®は電池をバイパスすることで解決を図っています。開発したのはこのバイパスを制御するアルゴリズムであり、"電池を使い切る"だけでなく"電池負荷軽減"という要件も考慮した上で、実装しています。
② SOC推定:上記バイパス制御を行う上で、電池のSOC(State Of Charge:充電状態)が必要となります。この推定手法は一般にいくつかありますが、手法によって得手不得手があります。そこで、YAZAKIが開発した独自手法を含む複数の推定アルゴリズムを、状況により切り替えながら採用させることで、推定精度向上を図っています。
③ SOH推論:異なる容量の電池を扱う上で、電池のSOH(State Of Health:劣化率)の推定精度が課題となっているため、機械学習を利用した推論方法を研究中です。
大野)ストイックに取り組み続ける姿勢が本当にすごいんです!
荘田)星出さん考案の制御アルゴリズムを見て、ブレークスルーってこういうことなんだと思いました。
星出)開発をしたいという気持ちがモチベーションになっていましたし、それは今も変わりません。
高木)また、半導体スイッチではなく、機械式リレーを使っています。そのための工夫が酸化被膜除去と接点状態検知です。
① 酸化被膜除去技術:リレーは負荷開閉を繰り返すうちに接点に酸化被膜が生成されることがあり、酸化被膜ができると接触不良に至ります。電流を流した状態でリレー接点を開閉すると酸化被膜は除去されますが、B∀TTERFLY®はリレーの切り替えの際に該当ストリングの電流を止めて切り替えるため、そのままでは酸化被膜が除去されません。それを独自の制御手法で課題を解決しました。
② 接点状態検知:ストリング内の各電池モジュールを充放電の経路につなぐ、または経路からはずすために、各電池モジュールに直列にリレーを実装し、それらと並列にリレーを実装しています。もしリレー接点が溶着していることに気づかずに、同じ電池モジュールにつながっているもう一方のリレー接点を閉じると、電池モジュールがショートしてしまい火災になる恐れがあります。そのようなことを未然に防ぐためにリレー接点の開閉状態を検知する技術を開発しました。
荘田)2つとも特許出願中の技術※です!解説の図は単純ですが、実際のストリングは複数の電池モジュールとリレーで構成され電力変換器に接続されており、また電池モジュールの電圧範囲も幅広く、充放電やSOC(State Of Charge:充電状態) 等の様々な条件が加わります。
※ B∀TTERFLY®関連特許届出実績:75件(2026年6月時点)
大野)高木さんはそうした周辺のユニットも加味して、俯瞰して全て考えられるところがすごいですよね。
高木)学生時代に勉強したことが役立っていますね。久しぶりに勉強したりして楽しいですし、知識が増えてスキルアップできている実感もあります。特に机上の検討から実際に動くものが作れた(第1次実証)ことが良かったですね。
荘田)それぞれが課題を解決してきた経験が積み重なり、チーム全体の雰囲気が前向きに変わってきたと感じます。
B∀TTERFLY®はどんなニーズを生むのか
Q6. 本製品のターゲットを教えてください。
荘田)B∀TTERFLY®の直接の顧客は蓄電システムメーカーで、B∀TTERFLY®を搭載した蓄電システムを導入していただきたいです。最初のターゲットは業務産業向け蓄電システムです。
Q7. ターゲットにとっての嬉しさを教えてください。
大野)まず、蓄電システムによる電力のピークカットによる電気代削減がお客様のメリットです。工場やビルでは、一定期間の「平均使用電力(デマンド)」によって基本料金が決まる契約が多いです。蓄電システムを使い、電力使用が集中する時間帯に放電することで、翌年の基本料金を下げることができます。ピークカット以外にも、再エネ活用率を向上できたり、BCP※強化にあてることもできます。
また、B∀TTERFLY®を搭載した蓄電システムは環境価値が高いため、導入した自治体や企業が環境に配慮した団体であることをPRできます。
※ BCP:Business Continuity planning(事業継続計画)
Q8. 業界におけるYAZAKIのポジションや競合との差別化ポイントを教えてください。
大野)電池リユースのために劣化状態の異なる電池を混在する技術を開発している企業は、私たちが認識しているだけでも複数社あります。いずれも異なる技術で劣化状態の異なる電池の混在利用を目指していますが、それぞれ技術的な課題や半導体スイッチを使うことによるコスト的な課題があります。B∀TTERFLY®は機械式リレーを使えるため、コストを抑えられるということと、スイッチによる電力損失が少ないというメリットがあります。
Q9. 業界のトレンドや、世の中からのニーズを教えてください。
荘田)再エネを普及させたい国々では、蓄電システムのニーズが高まっています。データセンターにも蓄電システムは使われ始めているので、今後もニーズは伸びていくと考えます。
当然ながら、電池を扱う以上、安全性は第一に求められることですので、独自アルゴリズムにより差別化を図りつつ、安全性も担保していきます。
まだまだ発展途上の市場、一企業だけでは限界も
Q10. 直近の開発状況について教えてください。
大野)静岡県裾野市にて、2025年1月から実証実験を開始しました。実証機が動くまでの道のりは地道でした。すぐに独自アルゴリズムについて確認できるわけではなく、異常停止が動作するか確認し、ノイズによってエラー停止が起きるとノイズ源を特定し修正する等、日々改善を繰り返していきました。私個人の思いとしては、実証機が動くだけでは安心できず、独自アルゴリズムの有意性が確認できてはじめて安心できました。
現在は、以下2点を重点的に検証し、実用化に向けたデータ取得を進めています。これらの取り組みを通じて、産業用や系統用等の蓄電システムへの適用を目指します。
① 独自アルゴリズムの有効性
② 電池異常検出と制御機能
YAZAKIは今後も、持続可能な社会の実現に貢献する技術開発を進めていきます。
第1次実証でB∀TTERFLY®の技術成立性を確認できたので、今後は第2次実証として、B∀TTERFLY®を搭載した蓄電システムの製品成立性を確認していきます。
Q11. 現状の課題とそれに対する取り組みを教えてください。
荘田)電池リユース市場はまだ発展途上であり、技術・安全性・制度・サプライチェーンなど、単独企業だけでは解決が難しいテーマが多いです。また、今後市場を拡大していくためには、業界全体としての信頼性向上や関係企業間の連携強化が重要です。
そのため、「競争」だけでなく「共創」の視点を重視し、電池リユースに関わる企業・団体とのネットワーク構築に取り組んでいます。その一環として、業界横断での連携・情報交換を目的にGBNet福岡※へ参画し、車載使用済み電池のエコシステム形成に向けた活動を進めています。
30年までに本格参入へ!YAZAKIの技術で、持続可能な社会の実現を
Q12. 長期的な目標やビジョンがありましたら教えてください。
荘田)再生可能エネルギーの有効活用と持続可能な社会の実現を目指し、2030年までにリユース蓄電システム市場への本格的な事業参入を目指しています。
Q13. 担当者個人の目標、この技術で実現したい世界を教えてください。
荘田)描いた社会像を実現することが目標です。そのためのB∀TTERFLY®であり、事業検討であり、GBNet参画です。開発そのものを目的にせず、ニーズに応えていきたいです。
大野)事業化まで持っていきたいです。事業化にはいろんな要素が組み合わさっていて、技術開発もその一部です。技術開発の課題・解決はわかってきたところですが、今後は営業や他の課題も解決してきたいです。社長からも「自分たちで最後までやり切れ」と背中を押されています。私も最後まで責任を持ってやり切ります